イギリス英語とアメリカ英語2
yaozoです。
日本の英語学習者の中でも割りと人気のあるテーマ「イギリス英語とアメリカ英語の違い」について、英語の専門家は何をどう考えているのか確認しようという投稿の続きです。
具体的には、英語史の堀田隆一先生のブログ『hellog』から、イギリス英語とアメリカ英語の違いについて、英語の専門家が何をどのように考えているか、まとめた投稿です。
参考図書は以下の2冊です。
先生のブログ内に『英語史で解きほぐす~』のコンパニオンページがありますので、↓を参考にまとめます。
spelling pronunciation 「綴り字発音」
この「綴字発音」というのは、
綴字に合わせて,歴史的,伝統的,標準的な様式とは異なる様式でなされる発音
と定義されています。
最も典型的な例が “often” の発音に起きている変化です。これは従来 [ˈɔ:fn]と発音され、途中の ”t” は「黙字」扱いとなります。
先に「黙字」を確認しておきましょう
黙字(mute letter)
wikiを読むと「黙字」には、↓のようなものがあります。
⇒語末のe
time, wineなど
⇒古英語からの語彙
high, know, gnaw, castle, climb, walkなど
⇒ギリシア語からの借用語
psychology, pneumonia, phthisisなど
元のギリシア語ではちゃんと読んでいたが英語では発音不可能としてスキップされるようになったようです。
⇒後づけ的に挿入された黙字
doubt, debt, subtle, receipt, isle, island, foreign など
これは、前の投稿で書いた、英語の綴りと発音がなぜ違うかの時に説明した問題です。フランス語からの借用語なのですが、この語源となった大元のラテン語に近づけて「かっこよく」「頭よさそうに」しようとした当時のインテリ層が、わざわざ足した黙字です。
⇒その他
“honor” などの ”h”。ラテン語では発音されていたが、フランス語から英語に入ってきたため、ご存知のようにフランス語は「h音」を発音しないため、黙字となったものです。
ちなみに、『マイフェアレディ』でおなじみのコックニーでは、フランス語同様「h音」を発音しません。よって、“He has a hat” は “ee as an at” と発音されます。
“often”は、しばしば[ˈɔ:ftən]と発音される
“often” に戻ります。
現代英語では、この言葉は[ˈɔ:ftən]と発音する方向にシフトしているそうです。「書かれているんだから、読もうよ」的な率直な発想らしいです。
個人的な認識としては、なんとなく、アメリカでは[ˈɔ:fn] と「t音の脱落」があるが、イギリスはちゃんと[ˈɔ:ftən]と発音する、と長らく思っていたのですが、映画・ドラマやYouTubeで見る講演などで、最近明らかなアメリカ人がちゃんと[ˈɔ:ftən]と発音しているのを、しばしば耳にします。
堀田先生のこの指摘で、なるほど別に英米関係ないんだなぁ、と安心した次第です。
同様なものに、↓の語があります。
⇒ “forehead” : [ˈfɒrɪd]から [ˈfɔ:hɛd]へ。
「h音」を読む。これを「フォーリッド」ということ自体、むりやり暗記してきましたので、この変化は大変好ましいですね。
⇒ ”towards” : [ˈtɔ:dz]から [təˈwɔ:dz]へ。
これはそもそも2つ目の「トゥワォーズ」という読み方しかしたことがなかったので、そもそもは「トーズ」だったことを知りませんでした。そりゃ素直に読めば「トゥワォーズ」ですよね。
YouTubeはなんて発音する?
次にあげられているのが、類似した綴字の語からの類推で、音が変化してきたタイプです。
典型例にあげられているのが “accomplish” という単語です。
これは従来、 [əˈkʌmplɪʃ]と「ァクンプリッシュ」みたいに発音されてきたものが、”stop” や ”tom” で母音の[ɑ:]が使われることからの類推で、 [əˈkɑ:mplɪʃ]とはっきり「ァカーンプリッシュ」と発音されるようになった語。
⇒ “constable”: [ˈkʌnstəbl]から[ˈkɑ:nstəbl]へ。
「警官」を意味するこの言葉も、↑と同様に「カー」と開いた母音に変わっています。
⇒ ”nephew”: [ˈnevju:]から[ˈnefju:]へ。
これは、そもそも「ネヴュー」なんて発音すること自体を知りませんでした。びっくりです。「ネヴュー」ですよ。習いましたっけ?「ネフュー」しか記憶に残ってませんけどね。ともあれ、逆じゃなくてよかったです。
⇒ ”assume”: [əˈʃu:m] から[əˈsju:m]へ。
逆にこの語は「アシューム」と発音してきました。堀田先生の説によると最近は「アセューム」みたいに発音するということになります。
この語だと話がピンときませんが、この変化ルールは、たとえば “consumer” といった単語の場合、ややなじみがありますね。
日本のビジネス界でも、「消費者」を指す場合、カタカナで「コンシューマー」ではなく、「コンスーマー」と書いたり言ったりするようになっています。この方が、単純に「かっこいい」ように見なされてます。より正確な発音をカタカナにすると「カンセューマー」くらいの感じだと思いますが。
↑であげてきた例は、どれも、経時的な意味で[古い]→[新しい]ということが言えると同時に、地理的な意味で[イギリス]→[アメリカ]ということも言えるらしいです。
で、たとえば”tube(管)” をイギリスでは「チューブ」と発音する(日本語のカタカナはこっちを採用)一方で、アメリカでは「テューブ」みたいに発音します。
この類推から、造語である “YouTube” を、イギリスでは「ユーチューブ」と発音し、日本人もカタカナではこのイギリス式で呼びますが、アメリカ人は「ユーテューブ」と発音しています。
ためしに、ケンブリッジオンラインディクショナリーで聞いてみてください。違いがわかりやすいですよ。
「グリニッジ天文台」と「グリーニッチ・ビレッジ」
また、上で説明したように、アメリカの方が「綴字にできるだけ素直に発音しようじゃないか」といった傾向は、地名を発音する際によく現れます。同じ地名がある場合、英米で発音が違います。
⇒ ”Derby”:[ˈdɑ:bi]と[ˈdə:rbi]
前者がイギリスで、後者がアメリカの発音です。アメリカには、知る限り少なくともケンタッキー州とカンザス州の2つの町が “Derby” という名を持っています。
がイギリスの綴字と発音の関係を見ると、[er]と閉じたっぽい綴りにもかかわらず、[ɑ:]と開いて発音されており、不自然です。アメリカ発音の方が、他の類似の綴字の発音と同じで自然に感じますね。同様なことが↓の地名でも言えます。
⇒ ”Thames”: [ˈtɛmz] と[ˈθeɪmz]
ロンドンにある川は「テムズ」発音します。日本語のカタカナ表記そのままですね。一方、アメリカのコネティカット州にある ”Thames River” は[ˈθeɪmz]と発音されます。これも「th」で始まっているので、[θ]と発音しようとするのが自然ではないでしょうか。
⇒ “Greenwich”:[ˈgrɪnɪdʒ]と [ˈgri:nwɪtʃ]
ロンドンの有名な天文台はカタカナと同じで「グリニッジ」と発音されますが、堀田先生によると、この地名もアメリカ英語、および最近の英語では、「グリーニッチ」と発音されるようになってきたとのこと。
とりあえず、YouTubeで、ニューヨークの”Greenwich Village”の観光案内ビデオでアメリカ人の発音を確認してみましたが、確かに「リー」と伸ばして最後は「チ」で閉められています。
イギリスの“Norwich”も、[ˈnɒrɪtʃ]または[ˈnɒrɪdʒ]と最後の音が「チ」または「ジ」の併記となっています。実際、私の友人もこの町に住んでいるのですが、発音は『どっちでもいい』とのことです。
はじめは「街の名前がどっちでもいい」というのは随分テキトーだなぁ、と思いましたが、日本語でも「が」の発音は「ga」という場合と、「nga」という鼻濁音の両方「どっちでもいい」わけですので、同じようなことだと思います。
ちなみに「私が~」と格助詞で使う「が」は、後者の鼻濁音の「が」が正しいという人もいますが、住んでいる町によってはこの発音をしたことのない人もいるらしいです。
西日本地方では鼻濁音を使わない町が多いといわれますし、若い人は使わなくなったといわれます。
しかし、少し調べたら、昔NHKの試験では普通の「が」と鼻濁音の「が」を読み分けられるかどうかが審査されたらしいです。また、私個人は聞いたことがありませんが、青森などの一部の地域では語頭でも鼻濁音の「が」行ではじめる人もいるらしいです。年配の方だとは思いますが。
差別化のための綴りの変更
ここまで見てきたのは、”spelling pronunciation”であり、「スペルに合わせて発音するように変化した語」です。
逆にここでは、”pronunciation spelling”という現象も紹介されています。これは「発音に合わせて綴字を変えた語」のことです。主に「商標や広告キャンペーンで使われる」と言われます。
たとえば、“lite(=light)” や ”EZ(=easy)” など、我々もよく目にする綴字ですね。ビールの「Miller Lite」なんて、「Lite」の文字をでかでかとパッケージの腹に書いています。やはり、カロリーやアルコール度数が「低い」点をアピールしようとしたネーミングに多いわけですが、「Light」とプレーンに書かれるよりは「違和感」があるので、それが商品名のインパクトにつながります。
他には「Adobe Flash Lite」や「Nintendo DS Lite」といったIT、ガジェット系でも使われます。
他に、ラップ・カルチャーに代表される音楽業界においてもこの変化は一般的にみられます。特に頻繁に目にする綴字では、”dis”,“dat” や “4U(for you)”などがあります。スプレイ缶で書かれるストリートアート系の文字なんかもこの手の綴字ですね。
有名なロックバンドの「U2」という名前は容易に「You too(君も)」という言葉を連想させます。
アメリカ英語がイギリス英語より同質性が高い理由
最後に、アメリカ英語の同質性について解説されています。
つまり、イギリスがあの狭い国土に鑑みると実に多様な方言がある一方で、アメリカがあれほど広い国土を有するにもかかわらず、イギリスと比べると方言の多様性が低い、つまり同質性が高い、ということです。
前にも書きましたが、アメリカのコメディアンが西部・東部・南部といった特徴のある方言を言い分けて笑いをとる芸があります。しかしアメリカ方言の場合は、とりあえずお互いに何を言っているのかはわかる範囲で留ますのに対して、イギリスの場合、ちゃんとした方言で話されるとまず何を言っているのかうまく意思疎通ができないらしいです。このあたりは日本とよく似ています。
アメリカの英語が同質性が高い理由として、以下の4点があげられています。
(1)国内の移動・移住が頻繁であること → なので、地域変種が現れにくい
(2)そもそも言語的・文化的・歴史的背景が多様な人々があつまっているので、コミュニケーション確保のために同質性を高める必要がある
(3)国民の間で国家的同質性の意識が高い → 自分がアメリカ人であることを重視する
(4)合理主義的な言語観を持っている → 住み所にかかわらず、最も合理的なルールが優先される
長々と2回にわけて、堀田隆一先生によるイギリス英語とアメリカ英語の差異にまつわるエトセトラを見てきました。これ以外にももちろんあるとは思いますが、かなり網羅的にカバーされています。
さすが専門研究者だということですね。勉強になりました。
イギリス英語/アメリカ英語のテーマはネット上でも人気ですが、皆さん関心が高いですね。私も大好きなテーマです。
またやります。
おまけ:イギリス英語学習について
英語学習については、高額なスクールに通う前に、かなり計画的に学習誘導してくれるような、自学ツールでコツコツやるのも一つの手ではないでしょうか。 ちなみに、うちの中一の娘はこれで英語頑張ってます。
また、イギリス人が普段の生活で話している英語を実際に「手加減なし」で聴き取って理解したい、という方には、「生のイギリス英語を現地の生録音」を使ってしっかりと「精聴」しよう、というコンセプトで作られている本が↓の2冊がおすすめです。
小川直樹さんと川合良平さんというに2人による、どちらかというと文化人類学的なフィールドワーク的アプローチの「現地語採取」に近い感じで、今のイギリス英語(話し言葉)を記録し、それを文字に起こし、そして解説する、という極めて面白い企画です。
まぁ、もちろん一発目は、音声だけ聞いて自分がどれくらい聴き取れるかやってみるんですが、インタビュアーがペラペラなので、対象のイギリス人もそりゃもう普通に、言葉につまったり、省略したり、訛ったりして、全く普段通りに話してくるので、わからない箇所が多いです。それを、しっかり聴き取れるプロが、文字に起こしてくれてるわけなので、「へ~なるほど、そうやっていってるのか。わかんなかったよ」というAHA体験が味わえます。
私にとっては、大変貴重なイギリス語学習の教材です。
RedとBlueがあります。
また、私も大好きな「シャーロック(カンバーバッチ版)」でイギリス英語にしびれた、という人も多いと思うのですが、ファンの方にもそうでない方にも、マンガでバイリンガルでシャーロックのシーズン1の3作を再現してくれている↓の3冊が超お勧めです。
大昔、ピーナッツ(スヌーピー)のバイリンガルマンガが好きで一所懸命読んで勉強したことを思い出す。
今考えると、子供用とはいえ、学校では習わない結構難しい表現が多くて苦労しました。というより、子供用だからこそ、我々が学校で習わないような「生っぽい」英語が多いので、知らない表現が多かったですね。
とにかくマンガで勉強というのは、現代の学習方法としては最も優れたものの1つですからね。
気になったセリフ回しがあって、対訳だけでは物足りない方は、そこだけネットサーフィンして徹底的に深堀りすると言った学習方法も楽しいですね。私は結構やりました。発見が多いですよ。
個人的には、「シャーロック」はシーズン1が最高の出来栄えだと思っているので、この3作だけでいいのではないかと思います。あくまで、個人的にはですが。
寝ころびながらのイギリス英語学習、いかがでしょうかね。
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