「thの音」が苦手なのは日本人だけなのか?

イギリス英語, ドラマ・映画, 英語学習

「th音(th-sound)」について考えてみました。

息子が小学低学年の頃に英語を教えていたときのこと。

ごくごく一般的な初等英語教育の手始めとして、参考図書にあったカレンダー関連の単語を暗記させていました。January, February~、『はい、よくできました』と。

次にSundayからSaturdayまで教えます。

残念なことに、「Thursday(木曜日)」があり、いきなり難関の「th音」が入ってきます。

 

Thursdayで早くも「th音」登場!

普通に七曜日を英語で言わせようとするだけなので、いきなりこれはやっかいな発音をいくつか含んでいる音で、初学者にちゃんと発音させるのは大変難しい言葉です。

もともと本人が、カタカタ英語で「サーズデイ」と発音していたので、まだ早いが仕方ないと思い、“θˈɚːzdèɪ” と記してあるとおりに指導してみました。

もちろん「ɚ」の音も「z」の音も難しいのですが、「ɚ」は『「ウー」みたいな感じの口で「あー」って言ってみて』ぐらいでOKにして、『「z」は、カタカナの「ズ」でいいや』、ということで軽く流します。

 

で、大変なのが冒頭の[θ]の音ですね。こんなもの、大人でも難しいのに、8歳くらいの日本人の子供に教えるのですから、上手くいくほうが奇跡的だと思うのですが、まぁ、とりあえずトライしてみました。

『ちゃんとお口見ててね、ほらこうやって舌を上と下の歯で軽く噛んでから、息を吐くんだよ。はい、[θ]』などとやってみるのですが、息子の口から息が出ません。

発音矯正に取り組んだことがある人はわかると思うのですが、このthの音の練習をはじめて、テキスト通りに舌を歯で噛んで音を出そうとしても、息の通り道を舌でふさいでしまう恰好になり、慣れるまで息を吐くのが簡単ではありません。舌で蓋をしてしまうような感じなわけですから。

 

息子も『ゔ~、ゔ~』と喉の奥でうなるばかりで、息が出てきません。しまいには、噛んでいる舌を話しながら、無理やり『ツー』などとやるもんですから、ツバが飛んでくるばかりで、音になりません。

本人もそれが面白く、ケタケタと笑っています。

まぁ、一回では無理だろうと、その後、何度か訓練してみました。私の発音では心もとないので、英語教材に付属のCDでアメリカ人女性の発音を聞かせてみます。

何度か聞かせてから、『はいどうぞ』とやらせてみます。

なんどかこれを繰り返します。

ネイティブの発音を音だけ聞いて「耳コピ」させようとすると、どうしても「サーズデー」といってしまいます。

 

ファンキュー

ちょっと趣向を変えて『じゃあさ、「Thursday」の「Th」は、「Thank you」の「Th」と同じ音だから、こんどは「Thank you」をCDで聞いてみよう』とやってみました。

もちろん「サンキュー」となるわけです。

そこで、これを ”θǽŋkjú” に矯正するわけですが、取り急ぎ「ǽ」は最初は複合母音ではなく短母音の「ア」になってしまっているので、これを直します。

『英語にはさぁ、日本語のアイウエオと違って、「2つ以上の音でできた母音」があるんだよ』とか説明し、『ええ~?』などと言いながらも、頭ではなんとか理解できたようです。音の複製力も私の中学生のときよりは悪くないようなので、何度かやらせてみると、私の耳で聴き分けられる程度にはうまくできるようになりました。まずは、第一関門通過です。

で、”θǽŋkjú” なのですが、最初は「サンキュー」といっていた息子が、なんとか「θ音」にチャレンジする中で、なにをどう聞き間違えたのか、[θ]のところが[f]になってしまい、”fǽŋkjú”と発音するようになっていまいました。

あわてて、『いやいや、[f]じゃなくて[θ]の音だから、この音だけもう一回練習しよう』ということで、『はい、舌を上と下の歯で噛んだまま息をだしてみて~。そのまま ”θǽŋkjú” って言ってごらん』と教えます。

「セァ~ンキュー」などと言っているうちは、まぁまぁ元気に言えるのですが、このように[s]を[θ]に直そうした途端、「ファ~ンキュー」と言ってしまいます。

で思いました。

これは、イギリスのEstuary Englishで[θ]が[f]に、[ð]が[v]になっちゃうやつと同じだ。


 

河口域英語

ここ数十年のうちにイギリスに住んだことがある人はみなさんご存知のことですが、現代イギリスには、「Estuary English(河口域英語)」というものがあります。

wiki 河口域英語

 

これは、いわゆる「クイーンズイングリッシュ(イギリス語では「RP=Received Pronunciation=容認英語」と呼ばれる)」と、東ロンドンあたりの労働者階級の使う「コックニー訛り」の中間的な英語です。

前者の「すましたような感じ」はなんだかおじいさんかおばあさんみたいでかっこ悪いし、後者の「ワイルドすぎる感じ」だと下品すぎるというか、タフぶり過ぎというか、ちょっと違うし、ということでどちらも避けたいという若者層が、その両者をミックスしたり、またアメリカ英語も取り入れたりしながら、なんとなく形ができてきた、英語の新たな訛りみたいです。

このEstuary Englishやコックニー訛りでは、“I think~” というとき、「I fink~」と発音しています。

また、“brother”は、「brover」と発音されます。

ほんとかと思うかもしれませんが、イギリスの最新のTVドラマなどを見るとマジで「アイ フィンク」とか「ヨォ、ブラヴァ」などとマジで発音しています。

この変化の規則と、うちの息子の「間違い」が同じだったことに、とても強い印象を受けました。

しっかりと[f]の口をして、あまりにストレートに「Fank you」と発音するので、『君は、東ロンドンあたりの人みたいな発音するねぇ』などと口に出してしまいましたが、息子にすれば『なに、それ~』ってなもんで、ケタケタと笑うばかりです。

 

本当に日本人だけ?

さて、ネイティブの英語教師をはじめとして、日本人がこの「th」の発音ができないことを、(「l」と「r」の音の区別ができないこととあわせて)ことさら不思議なことかのように言うのを聞くことが多いです。そして、なにやら無用な発音コンプレックスを植え付けようとしています。『発音なんかどうでもいい』とは全く思いませんし、およそ外国語を勉強しているわけなので、できるだけその言語を使うネイティブに近い発音ができる方はいいに決まっています。

ただ、書籍やスクールのマーケティングのためだとはいえ、あまりにその点を強調しすぎるところがあるので、やや食傷気味です。

 

それに、そもそもそんなにわぁわぁ言われるほど、日本人だけがとりわけこの音が苦手なのでしょうか。

つまり、他の言語話者は我々日本人ほど、この「th」の音に苦労しないのでしょうか。

疑問に思い、例のごとく堀田隆一先生の、『hellog~英語史ブログ』で調べてみました。

hellog~英語史のブログ

関連投稿はこちら(「英語の綴りと発音が違う3つの理由」)

 

このブログでは、ほとんどといっていいくらいのこの手の「素朴な疑問」には、すでに明快な説明をしてくれているので、このブログ一択でわかります。

ということで、早速ありました。さすが、堀田先生、マジですごい。

 

#842. th-sound はまれな発音か

 

ここには専門家の筆でしっかりと、↓のように書かれています。

 

一般に th-sound ([θ], [ð]) は言語音としてはまれであり,多くの非母語話者にとって習得しにくいと言われている.実際に [θ] を [t] や [s] で代用する非母語話者が多く,その点を考慮して国際的な航空管制英語 Airspeak では three を tree として発音することになっているほどだ.th-sound はこのように世界で悪名高い発音としてみなされており,英語の liability の1つとして言及されることもある.

 

やっぱりそうか。

 

こんな音、わざわざ出す民族が多いとは思えないし、これを「訓練によって(日本人よりは)容易に発音できる」民族が世界にそう多くいるとは思えません。

ある調査では、対象になった451の言語のうち、この[θ]、[ð]という2つの「歯摩擦音」を含むのは、ほんの4~5%に過ぎないらしいです。

ちなみに、言語学では、[θ]、[ð]をそれぞれ「無声歯摩擦音(むせい は まさつおん)」「有声歯摩擦音(ゆせい は まさつおん)」と呼ぶようです。

 

「歯」をそのまま「は」って読ませるところが面白いです。いきなりここだけ「訓読み」って。

堀田先生の「目からうろこモノ」の英語史の本は↓。英語好きは必読です。英語学習の深みが変わります。


 

「航空管制英語 Airspeak」って何ですか?

それはそれで納得して一件落着なのですが、説明の中で生まれて初めて見た言葉がありました。

「航空管制英語」ってなんですか。

wikiでは「航空英語(Aviation English)」で説明がありました。

パイロットや航空管制官の中には英語の運用能力が十分でない方もおり、聞き間違いによるディスコミュニケーションが発生し、飛行機の衝突事故で死亡者が出たことから、明瞭性を高め、ヒューマンエラーを高めるため、様々な工夫がされているとのことです。

 

たとえば、「フォネティックコード」を使ったり、言い直すときには「correction」と言ってから言わせたり、と特殊なルールがあるらしいです。

で、「フォネティックコード」とありますが、これはなんだ?ということです。

調べると、アルファベットを聞き間違えないように、各文字を単語で言い換える、ということらしいです。

って書いてもなかなか分からないので、wikiの「NATOフォネティックコード」を参考にして、具体的に書くと、↓のようになります。

 

「EBG-1234」

自分の飛行機が↑のような機体ナンバーであり、それを管制塔や接近中の別機に伝える際、そのまま「EBG-1234」などと言ってしまうと、たとえば「EDB-1234」などと聞き間違えられる可能性があるので、↓のように発音するそうです。

「Echo Bravo Golf 1234」

 

アルファベットを各々にあたる単語「Echo」「Bravo」「Golf」と声に出す、という方法です。

なるほど。

これは、よく刑事ドラマで聞くやつですね。

たとえば私の大好きな『Line of Duty*』というイギリスの刑事ドラマの中では、警察署内の不正を暴く内部捜査部門が主役なので、内部捜査の担当者が捜査される側の警官のコードを、音声記録のために読み上げるシーンがよく出てきました。

*投稿日現在、全シリーズをNetflixで配信中です。

 

その際に、ある特定の警官のことを指す際に、その方の氏名ではなくコードで読びます。これは、インタビューが(音声記録だけなので)後で聞き間違えのないように工夫しているわけです。

でたとえば、ある警官が↑の「EBG-1234」というコードだった場合に、その警官について述べるとき。

たとえば一般人なら、『「EBG-1234」は午後7時に、当該ビルディングに侵入し、自らの拳銃で~』と発音するところを、『「Echo」「Bravo」「Golf」1234は、1900時に~』と発音します。

警官が複数出てくる事件を取り扱っているときなんかは、これが4人くらいがこのコードで早口でまくしたてられるわけです。これはこれで面白いですね。

 

ちなみに時間の読み方についてですが、日本人の場合、ビジネスパーソンでも普通に「14時半に集合」などと、24時間単位を用いることも少なくありませんが、私の知る限り、欧米では軍隊か警察のような特殊な組織以外では使わないようです。外国の方宛のメールで、うっかり「~at 19:00 my time.」などと書いてしまうと、『警察みたいですね』とからかわれる時があります。読み方は「午後7時」の場合「1900」と書き、「nineteen hundreds」と発音されます。

 

また、数字の読みでも、英語の[θ音]が特殊なため忌避されることをうかがわせるルールがあります。具体的には、、、

3=tree

5=fife

9=niner

とそれぞれ発音します。やっぱり。

 

とまぁ、こんな感じでちょっと調べるだけでも、2つの「歯破擦音」がいかに特殊な音が、ということがよくわかります。

だから練習しなくていいわけではありませんが、一部のネイティブが言うほど、日本人に特殊なことでもなければ、簡単な発音ではありません。なので、少しづつでも近づければよいのだと思います。

Fank you.

 
英語学習については、高額なスクールに通う前に、かなり計画的に学習誘導してくれるような、自学ツールでコツコツやるのも一つの手ではないでしょうか。 ちなみに、うちの中一の娘はこれで英語頑張ってます。

 

 

 

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Posted by yaozo