Netflix「After Life」で学ぶイギリス英語 その9
イギリスの人気コメディアンRicky Gervais主演・監督・プロデュースによる、Netflixの人気オリジナルドラマ「After Life」で楽しくイギリス英語を勉強しましょうというシリーズ企画の今回は第9回です。今回はs1e4の続きからです。
slacks
最愛の妻Lisaをがんで亡くしてやけになっているTonyの幸せを願い、亡くなった妻Lisaの弟Matt(Tonyの勤務する新聞社の編集長でもある)がデートをアレンジしてくれました。
最初は反対したTonyですが、結局デートに行くことに決めたTony。
編集部のみんなは、第一印象が大切だからと、デートのファッションについてアドバイスするシーンがあります。その際に、ディナーならそこそこの恰好がマストだが、ランチの場合ならドレスコードは少し緩くてよいとして、下のように言います。
But for lunch, you’ll probably get away with blazer and slacks?
でもランチだったら、たぶんブレザーとスラックスで問題ないと思うよ。
「slacks」は、日本語で使う「スラックス」と全く同じ意味合いの言葉です。
Collins Dictionaryが、いくつか見たオンライン辞書の中で最も厳密な定義がされていましたので引用します。
Slacks are casual trousers.
[old-fashioned]
あまり最近の若者は使わないとのこと。そもそもスラックス履きませんからね。そりゃそうです。
Slacks in British
Informal trouser worn by both sexes
Slacks in American
Trousers for men or women; esp., trousers that are not part of a suit.
アメリカ英語の説明が、一番日本人の認識に近いことがわかります。
そもそも、「slacks」は形容詞の「slack」から来ており、ゆったりしたズボンのデザインからこの名がついたようです。この形容詞「slack」は、Collinsでは下のように定義されています。
Something that is slack is loose and not firmly stretched or tightly in position.
ちなみにCollinsの意味説明の仕方は他の辞書と異なり、ユニークですね。「『slack』なものというのは、これこれこういうものをいう」という説明の仕方です。
Cambridgeだと、形容詞を別の形容詞で説明します。ほとんどの辞書の説明はこのような手法ですね。
loose or not tight
ズボンはイギリス英語で「trousers」で、アメリカ英語だと「Pants」だというのはよく知られた話でしょう。
実際、今でもイギリス人がアメリカ人の口から「pants」という言葉を聞くと、わかっていても「下着のパンツ」が脳裏をよぎり、顔赤らむ思いがするらしいです。
これは全く日本における、シニア世代と若い世代の「パンツ」の定義と同様なのが面白いです。
get away with
上の文章で、「(スラックスで)問題ないと思うよ」の部分は、「get way with」というイディオムが使われています。
Collinsでは、
in British で
- to stealand escape(with money, goods, etc)
- to do (something wrong, illegal, etc) without being discoveredor punished or with only a minor punishment
とあります。
元来は、1にある「~をもって逃げる」というそのまんまの意味があって、これが意味変化し「(本来責められるようなことを)見とがめられず、やりすごす」といった表現になったようです。
今回の場合は、本来はスーツでパリッと行くのが、まぁ本格的なんだろうけれど、ブレザーとスラックスでも「なんとかやり過ごせる」といった感じで使われています。
ちなみに、イギリス英語とアメリカ英語を比較検討するときは、Collinsが最も詳しいことがわかりました。
他の辞書と比べると、微に入り細を穿つ感じなので、短い時間でパッと調べたいときには向かないかもしれませんが、「you」「go」といった基礎単語ですら、必ず「in British」「in American」の項目が設けられ、英米の英語の違いを前提に作成されていることがわかりますので、この企画のように、英米の違いなどを深堀りする際には、最も有用かもしれません。これから頻用したいと思います。
それでは、ここからはs1e5を見ていきましょう。
so and so
s1e5は、シリーズ中に何度もインサートされる、Lisaが生きているうちに病院で撮影しておいた動画(「遺言ビデオ」のようなもの)からスタートします。Tonyはこのドラマでは、ノートPCでこのような動画をしばしば見て思い出に浸っています。
今回の動画では「自分が死んだら、お葬式でも楽しくやってね、パーティも必ずやってよ、あなたはいつもパーティでは楽しい人だから」という遺言です。ここでTonyが酔っぱらった次の日の彼の癖について、Lisaが話します。
Then you have a sort of spiritual hangover the next day, worried you’d offended so and so.
それで、次の日は二日酔いになって、誰かの気分を害したんじゃないかと心配するのよ。
ここでLisaは、「誰か」の意味で「so and so」という言葉を使います。
Collinsで調べると、イギリス英語では、
-
a person whose name is forgottenor ignored
-
a person or thing regarded as unpleasant or difficult
とあります。
1つ目は、単に人物を特定する必要がない文脈で使われる「何某」くらいの意味です。
しかし、2つ目はあまり良い意味では使われないようです。
ちなみにアメリカ英語では、1つ目の意味が土台ではあるものの、しばしば2つ目の意味で使われるとあります。このあたりに微妙な差があるようです。
moped
全くうまくいかなかったTonyのデートが終わり、店から出た直後に、路上で女性がバイクに乗った暴漢からバッグをひったくられそうになります。
やぶれかぶれなTonyは危険を顧みず彼らを攻撃しますが、デートの相手に「馬鹿なことしちゃって。かえってあぶないじゃないの」などと言われます。
Then I tried to knock a couple of muggers off a moped.
そんで、ひったくり連中を、ぶんなぐって原付からおろしてやろうとしたんだ。
小型バイクに乗った二人組のバイクを指して、「moped」と言っていますが、聞いたことがない言葉なので調べました。Collinsでは写真付きで下のように説明しています。
A moped is a small motorcycle which you can also pedal like a bicycle.
Mainly British
私自身は実物を見たことがありませんが、自電車モードとバイクモードがある二輪車のことでした。
日本では「モペット」と呼ばれるらしく、「トモス」というブランドが人気のようです。実際に動画で見てみました。いかにも国土の狭いイギリスで流行りそうな感じです。アメリカだと、この力量では用が足りないかと思います。
ただし、日本以外の国では、ペダルの有無にかかわらず小排気量のオートバイ全般をmopedと呼ぶらしいので、まさに日本語の「原付」の感じですね。
実際、このシーンの中のバイクは、実際は厳密な意味でのmopedではないように見えました。
s1e5の途中ですが、続きは次回に。
おまけ:イギリス英語学習について
英語学習については、高額なスクールに通う前に、かなり計画的に学習誘導してくれるような、自学ツールでコツコツやるのも一つの手ではないでしょうか。 ちなみに、うちの中一の娘はこれで英語頑張ってます。
また、イギリス人が普段の生活で話している英語を実際に「手加減なし」で聴き取って理解したい、という方には、「生のイギリス英語を現地の生録音」を使ってしっかりと「精聴」しよう、というコンセプトで作られている↓の2冊がおすすめです。
小川直樹さんと川合良平さんというに2人による、どちらかというと文化人類学的なフィールドワーク的アプローチの「現地語採取」に近い感じで、今のイギリス英語(話し言葉)を記録し、それを文字に起こし、そして解説する、という極めて面白い企画です。
まぁ、もちろん一発目は、音声だけ聞いて自分がどれくらい聴き取れるかやってみるんですが、インタビュアーがペラペラなので、対象のイギリス人もそりゃもう普通に、言葉につまったり、省略したり、訛ったりして、全く普段通りに話してくるので、わからない箇所が多いです。それを、しっかり聴き取れるプロが、文字に起こしてくれてるわけなので、「へ~なるほど、そうやっていってるのか。わかんなかったよ」というAHA体験が味わえます。
私にとっては、大変貴重なイギリス語学習の教材です。
RedとBlueがあります。
また、私も大好きな「シャーロック(カンバーバッチ版)」でイギリス英語にしびれた、という人も多いと思うのですが、ファンの方にもそうでない方にも、マンガでバイリンガルでシャーロックのシーズン1の3作を再現してくれている↓の3冊が超お勧めです。
大昔、ピーナッツ(スヌーピー)のバイリンガルマンガが好きで一所懸命読んで勉強したことを思い出す。
今考えると、子供用とはいえ、学校では習わない結構難しい表現が多くて苦労しました。というより、子供用だからこそ、我々が学校で習わないような「生っぽい」英語が多いので、知らない表現が多かったですね。
とにかくマンガで勉強というのは、現代の学習方法としては最も優れたものの1つですからね。
気になったセリフ回しがあって、対訳だけでは物足りない方は、そこだけネットサーフィンして徹底的に深堀りすると言った学習方法も楽しいですね。私は結構やりました。発見が多いですよ。
個人的には、「シャーロック」はシーズン1が最高の出来栄えだと思っているので、この3作だけでいいのではないかと思います。あくまで、個人的にはですが。
寝ころびながらのイギリス英語学習、いかがでしょうかね。
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