はじめてのインド出張:ムンバイ本社で過ごした濃密な3週間
私は、インド・ムンバイに本社を置く翻訳会社に勤務しています。
日本法人で働く私にとって、インド本社とのやりとりは日常業務の一部であり、ZoomやCliqコールを通じて多くの現地スタッフとも顔見知りになっていました。
そして昨年、ついにそのインド本社へ、3週間の研修を目的に訪問することとなったのです。
■ 初めてのインド、初めてのムンバイ
出発前、正直言って不安も多くありました。初のインド、文化も気候も、そして言語もまったく異なる地。
しかし一方で、長らく画面越しにやりとりしてきた現地メンバーと、ついに対面できるという興奮もありました。
ムンバイのチャトラパティ・シヴァージー国際空港に降り立った瞬間、むわっとした熱気と混沌とした活気に包まれ、思わず「来たんだ」と実感。迎えに来てくれるはずの社用車のドライバーとは、予定通りにはなかなか会えず、空港内でSIMカードを購入して総務に連絡するハメに。指定されたカフェ前でようやく彼と合流するも、英語がまったく通じず、初日から「これがインドか…」と痛感することに。
それでも、なんとか社長の所有するマンションに到着。重たいスーツケースとともに、無事「インド生活」のスタートを切りました。
■ 初出社:バーチャルの人たちが目の前に!
翌日は、いよいよ本社オフィスに初出社。興奮と緊張でうまく眠れずに迎えた朝でしたが、現地スタッフの皆さんの温かい歓迎に心がほぐれていきました。
半年以上、リモートでやりとりを続けてきたメンバーが、実際に同じ空間にいることの不思議。
「あ!本当にいる!」
と、思わず声が出そうになるほど。スタッフたちも笑顔で出迎えてくれて、まるで旧友に再会するかのような雰囲気でした。
私は日本からのお土産として、お菓子を大量に持参していました。特に人気だったのは、抹茶味のキットカット。
まるで“季節外れのサンタクロース”のように、大きな紙袋から次々にお菓子を取り出して配って回ります。
「わあ、抹茶ってどんな味なの?」「これはチョコ?ビスケット?」
と目を輝かせるスタッフたちの様子に、持ってきてよかったと心から思いました。
■ 毎朝の通勤は、インド式交渉から始まる
通勤は、会社の総務スタッフが毎朝私の滞在するマンションまで来てくれて、オートリキシャー(三輪タクシー)を拾ってくれるところからスタートします。
マンションから会社までは10分程度と短距離。しかしこの“短さ”が逆に問題に。
オートリキシャーの運転手にとっては“稼げない仕事”であり、「もっと遠くの空港送迎を待ちたい」というのが本音なのです。
そのため、総務スタッフが必死に交渉してくれるのですが、私はヒンディー語が話せないため、1人ではまず無理。運転手によっては最初から拒否されることもありました。
そしてさらにやっかいなのが、運賃を支払おうとすると「お釣りがない」と言われること。
え?ないってどういうこと?と最初は驚きましたが、これはどうやら“仕様”のようで、支払い時の小銭問題は毎朝の恒例行事となりました。
■ 釣りがない文化と、学びの連続
この“お釣り問題”は、通勤だけでなく、インド版Uber Eatsのようなフードデリバリーアプリでも同様。
「お釣りがありません」とはっきり言われ、最初のうちは泣き寝入りしていましたが、あるドライバーが「アプリで返金できますよ」と教えてくれたのです。
それ以来、少しずつインド式生活のコツを学び、柔軟に適応していくようになりました。
■ ランチタイムの文化と、じわじわ迫る「油」の影
インド本社の昼休みは、まさに“社交の時間”。
社員たちはキッチンスペース「パントリー」に集まり、それぞれの持参したランチを見せ合い、シェアし合います。
「これ、うちの母が作ったやつ。食べてみて!」
「お前にも絶対食わせたいと思ってたんだ」
と、彼らの“おもてなし精神”は本当に温かく、うれしいものでした。
ただし、日本人の私にとってひとつの課題が。それは「油」と「水」。
事前に「インドでお腹を壊す原因は、この2つ」と聞いていた私は、食生活にはとても気を使っていたのですが……。
断りきれずに食べ続けた“愛情たっぷりのランチ”の中に、少しずつ消化しきれない成分が溜まっていったのでしょう。
■ ついにきた…インドの洗礼「水下痢の夜」
インド滞在も2週間目に差しかかったある木曜の夜。
突如として、お腹に違和感が走り、そこから信じられないスピードで「水道の蛇口が壊れたかのような」下痢が始まりました。
20分おきにトイレへ走る。
便は色も形もなく、まるで水そのもの。
当然、眠れるわけもありません。
翌朝、フラフラの状態で会社に電話を入れ、お休みをいただくことに。
「ついに来たか…」という気持ちと、
「2週間もっただけでもすごい」と自分をねぎらう気持ちとが、入り混じった朝でした。
そして、インドの仲間が私の体調を気遣い、自分のランチと一緒に、私のランチ(おなかにやさしいもの)をわざわざ作って持ってきてくれました。↓の写真です。まぁ、カレーなんですけどねw
■ リモートの先にあるリアル:異文化と向き合った3週間
そんなこんなで、私のムンバイでの研修は波乱含みの中でも、多くの学びと感動にあふれたものとなりました。
遠く離れていても、リモートでつながっていたインド本社の仲間たちは、やはり“実在”していて、“心のある人々”でした。
リキシャーの交渉、釣り銭の攻防、お腹との戦い、Wi-Fiの弱さ……
どれも想定外の出来事ばかりでしたが、そのひとつひとつが、確実に私の中で“異文化理解”という種になって芽吹いています。
■ 最後に:また会いに行きたい場所ができた
帰国後、振り返れば、インドでの3週間は本当にかけがえのない体験でした。
同じ会社の仲間であっても、物理的な距離、文化の違い、生活習慣の差という壁は確かにあります。
しかし、その壁を「知る」ことができたのは、間違いなくこの現地体験のおかげです。
次回ムンバイを訪れるときは、今回より少しだけ強く、少しだけ慣れて、そしてもっと深く現地の人々とつながれる気がしています。
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